コロナ禍で在宅勤務が広がり、東京都心を離れて逗子や葉山などに転居する人が増えている。多くが共働きの若い世帯で、この世代の移住促進を図ってきた自治体は歓迎する一方、急増しそうな待機児童をどうするかなど対策に追われている。
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神奈川県逗子市桜山に中古の戸建てを購入した会社員の小林亮太さん(33)は、JR、京急の始発駅から徒歩圏内にある新居に満足している。「住んでいた新宿区の賃貸マンションは1LDK。広さは2倍になり、海岸を散歩すれば気分が上がる。リフォーム代を含む月々の支払いは今までの家賃より5万円安い」
葉山の知人宅を足場に逗子には何度も来ていたが、東京駅に近い勤め先に週5回通う間は移住をためらっていた。今は周囲も自分も出勤は週2、3回。妻も働き、子どもはいない。「移住するなら今」と思った。「子どもが生まれたら家は貸して都心に戻るかも。それでも持ち家は資産になる」。同僚にも移住を相談され、業者を紹介した。
フリーのウェブディレクター福田美佐子さん(49)は、東京都渋谷区内のマンションを売って北鎌倉の中古戸建てに転居。「みんな在宅勤務になってマンション周辺が人であふれ、もっと静かで緑に近い場所で暮らしたくなりました」。2階建ての新居は十分広く、1階部分をサロンなどに活用したいと考えている。「ここを必要とする人に開放し、つながる場にしたい。ここだからやれることに挑戦したい」
緊急事態宣言後、問い合わせ急増
逗子市の不動産会社「ハウスモリー」の井上孝仁社長によると、緊急事態宣言が出た今春以降、問い合わせが急増した。20代後半から40代前半の共働き世帯が中心で、平均的な要望は「駅徒歩圏内、敷地面積100平方メートルの戸建てを4千万円程度で」。都内なら同じ価格は40平方メートルのマンションだ。「知名度で鎌倉に及ばない逗子も、鎌倉の一駅先で価格が安いと聞くとみんな身を乗り出す。逗子からバス利用の葉山ならもう一回り広い。イメージも良く逗子以上の人気です」
同社の昨年度の契約件数は140件だが、今年度は10月末までに138件。顧客の6割以上が東京や横浜在住だ。「でも、早くも物件が払底し、保育園が見つからず契約をあきらめるケースも増えている」
移住人気は何をもたらすのか。逗子市は9月、子育て世帯の転入増への対処を探る庁内プロジェクトチームを作った。教育関係の各部署に経営企画部長、財政課長なども加わり、金がかかる施策も辞さない決意がにじむ。同市は人口の自然減と高齢化による税収減が悩みだが、長く転入超過が続いてきたために、近隣の横須賀、三浦両市ほどの危機感はなかった。若い世代の移住を狙って細々と知名度向上を図ってはきたものの、移入世帯の分析も手つかず。そこへコロナ禍が思わぬ“後押し”になった。
昨年4月に18人だった保育園の待機児童数は今春は22人。来年度の入園申請数は今年より少ない印象だというが、チームのシミュレーションでは、小学校や学童保育は何とかなるが、保育園児は1%増でも対応が困難になる。民間保育園に資金援助して受け入れ枠の拡大と保育士増員を要請したいが、継続的な人件費を負担する余裕はない。どこまで出せるか、ぎりぎりの検討が続く。桐ケ谷覚(さとる)市長は「せっかく逗子に来てくれた人が失望すれば、SNSであっという間に広がってしまう。『お金がない』では通らない」と話す。「事業の優先順位を変え、なんとしても保育士を確保する。働いていない有資格の方々に臨時で助けていただきたい」
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル